小麦粉と塩だけでアク抜きできるのはウソ?ホント?
【わらびの実験コラム】 5/5頁
小麦粉と塩でアク抜きはウソ!?
ここ数年、わらびのアク抜き方法として台頭してきているのが、小麦粉と塩を使った方法です。
古来からのアク抜きの方法としては、木灰や重曹を使い、1日から2日がかりで行う方法が一般的でした。
現在流行っている方法は、普通に台所にある小麦粉と塩を使い、しかも13分でアク抜きできるという手軽さ。正直、私もずっとこの方法をとっていました。
しかし、私個人は現在はこの方法は推奨致しません。
その理由につきまして、アク抜き実験の結果と共に解説していきます。ご興味がありましたらご一読下さいませ。
とは言うものの、2日ほどかかる従来のアク抜きに比べて、13分でできるというのは魅力的ですし、多くのサイトでも推奨していますので、忙しい方、すぐに食べたい方、重曹や木灰が無い方が、この方法でアク抜きするものを否定するつもりはありません。
このアク抜き方法に疑問を持った瞬間
クックパッドのつくれぽがきっかけ
さて、既に述べたように私自身も小麦粉と塩を使う方法で、わらびのアク抜きをしていました。また、その方法を人気のレシピサイト「cookpad」にも掲載しておりました。そのレシピ(アク抜き方法)に対しては、60件('17/3/7現在)もの「つくれぽ」を頂きました。
「つくれぽ」とは、「このレシピを参考に作ってみましたよ」という画像入りのコメントみたいなものです。
しかし、60件中で5件ほど、苦味、えぐ味が残ったというコメントもありました。
そこで、そういった苦味が残る場合の原因を探ろうと、実験を開始したのが全ての始まりでした・・・。
実はアク抜き後も苦かった?
いつもはアク抜き後に山菜ご飯にしたり、天ぷらにしたりで食べていたのですが、「アク抜きの実験」ということで、小麦粉と塩を使ってアク抜きをした後に調理をせずに、わらびをそのまま齧ってみました。
あれ?苦いよ?
Σ(=д=ノ)ノ
え?失敗したのか?と思い、すぐにスーパーに行ってわらびを購入し、家に帰って来て再びアク抜き → そして試食。ところが、やはり苦い!これを4回ほど繰り返しました。
そこに至って、コレおかしいぞ、と。
ほろ苦いとかじゃなくて、けっこうエグいんですよ。という事は、いつもは天ぷらにして揚げたり、味付けしてから食べていたので気付かなかっただけで、実はこの方法でアク抜きをしても苦味、えぐ味は取れていなかったんじゃないか?という疑念が・・・。
そこで本格的に(一個人、一素人ができる範囲で)アク抜きの検証をしてみることにしました。
世に広まっている小麦粉でのアク抜き方法
それでは、まずは小麦粉と塩を使って13分でできると言われているわらびのアク抜き方法をご紹介します。
※個人的には、このアク抜き方法は間違いであると結論づけています。
正しい(と思われる)アク抜き方法は 「小麦粉を使った正しいアク抜き方法」 の項目を参照して下さい。
1.水
鍋などに1Lの水を用意します。
2.小麦粉
小麦粉大さじ4を加えます。
3.塩
続いて、塩小さじ2を加えます。
4.混ぜる
よくかき混ぜて小麦粉と塩を溶かし、火にかけます。
5.わらびを用意
洗って根本を切ったわらびを用意します(お好みで穂先も除去)。
6.わらびを投入
沸騰したら鍋にわらびを入れます。
7.3分茹でる
そのまま弱火で3分間わらびを茹でます。
8.冷水に晒す
3分後にわらびを取り出し、冷水に10分間晒してアク抜き終了。
これが、現在多くのサイトで紹介されているアク抜き方法で、私自身もクックパッドで紹介していた方法です。
しかし、この方法は間違っていたのではないかと、今現在は考えています。
※熱湯や塩を使うことで発がん性物質は消失しますので、その点に関して言えば、これでも大丈夫なのではないかと思います。
発がん性物質やわらび中毒に関しては 3ページ目 で解説しています。
小麦粉でわらびのアク抜きができる理由
普通は重曹や木灰などを使って1~2日もかかるわらびのアク抜きが、どうして小麦粉を使って13分でできるのか?
その理由は、わらびを塩茹でした場合に、水中のアクとわらびの中のアクの濃度が同じになると、それ以上アクは抜けない。しかし小麦粉を使う方法なら、水中に溶けた小麦粉がコロイド粒子となりアクを吸着することで、アクもどんどん抜けていくという原理。
一つおかしな点がある
かなりそれらしい原理ですよね。これなら確かにアクも抜けると思えます。
しかし、コロイド粒子がアクを吸着してくれるならば、
冷水に晒すよりも、小麦粉を溶かした水に晒した方が良くないか?
そうですよね?そう考えまして、まずこの情報の発生源を調べることにしました。
アク抜き方法の情報のブレを発見
この方法が出回ったのは2012年
このアク抜き方法がそもそも何発信であったのか? この情報がネット上に出現したのはいつなのか? Googleの検索設定で期間を遡って検索していってみると2012年に初めて情報が現れています。
いわゆるトレンドアフィリエイトサイトが、NHKの「あさイチ」で放映された内容を記事にしたもののようです。その後、同じようなトレンドアフィリエイトサイトがその内容を同じように記事にし、
またそれを実践した人々がブログなどで記事にし(私の場合はクックパッドに掲載)、こうしてどんどん情報が拡散されていったようです。
情報の発信元はあさイチ
これで、あさイチの放映内容の動画があれば、確実にそれ発信の情報だと断言できるのですが、私がネット上で探してみたところ動画は見つかりませんでした。また、あさイチの公式HP内でも、この情報を見つける事はできませんでした。
そして中には「ためしてガッテン」で放映されたという情報もありましたが、こちらも動画や公式サイトの情報はありません。
そんな中で、トレンドアフィリエイトサイトなどよりも信頼性の高い情報を発見しました!
「J-CASTテレビウォッチ」に掲載されているあさイチの 放映内容 、
及び、「gooテレビ番組」に掲載されているあさイチの 放映内容 です。
この二つのサイトの情報によると、小麦粉と塩によるわらびのアク抜きが、あさイチで放映されたのは2012年4月2日です。
そして「ためしてガッテン」で放映されたという情報は無いので、こちらに関しては情報が拡散していく上での「過失的揺らぎ」であり、間違いの可能性が高いのではないかと思います。
アク抜き情報にブレがある!
さてそれでは、上記の「J-CASTテレビウォッチ」に記載されている放映内容の、わらびのアク抜きに関する部分を確認してみます。
「塩茹で3分、小麦粉を溶かした冷水液に10分浸す」 とあります。
あれ!?全然違うじゃん!!
そう、ただの冷水に晒すのではなく、小麦粉を溶かした冷水液に晒すとあります。確かにこれならば、コロイド粒子がアクをどんどん吸着するという説明も納得です。
最初に記事にしたと思われるトレンドアフィリエイトサイトを確認すると、「小麦粉を溶かした水で茹でて、その後に冷水に晒す」と記載してあります。この間違えた内容の情報がそのまま世に広まってしまったと考えられます。
しかし動画で確認できない以上は、逆に「J-CASTテレビウォッチ」が間違えているという可能性はもちろん否定はできません。とは言うものの、コロイド粒子の原理を考えるとトレンドアフィリエイトサイトの方が間違っているという可能性が高いと私は思います。
つまり多くのサイトのアク抜き情報は間違いである
こう、結論づけても良いのではないでしょうか。
そして私自身も、その間違いの情報に踊らさせて、その情報を世に広める手助けをしてしまったという事で、
「面目ないです。」としか言いようがありません。誠に申し訳ございません。
m(;∇;)m
スミマセヌ
小麦粉を使った正しいアク抜き方法
それでは以上の事を踏まえて、小麦粉を使ったわらびのアク抜き方法の元々の情報であったと思われる、正しいやり方も解説します。
1.塩茹で3分
1Lの水に塩を小さじ2加え、沸騰したらわらびを入れて3分間茹でます。
2.小麦粉水に10分晒す
3分後にわらびを取り出し、小麦粉大さじ4を溶かした1Lの冷水液に10分間浸しておきます。
でも何か苦いんだけども…?
この方法が、おそらくは放映された内容に沿った正しいアク抜きだと思われます。
これでばっちりアクも抜けているだろう!と、ぱくっと齧ってみました。
。≠( ̄~ ̄ )
ムシャムシャ
あれ~? 結局、何か苦いんですが・・・。
考えられる範囲で実験してみた
そもそも「水1Lに対して」の「1L」という数字は、「J-CASTテレビウォッチ」にも「gooテレビ番組」にも出ていないんです。つまりこの「1L」という数字も正しいのかどうかは不明であると言えます。
しかし、この「1L」という数値自体を疑って、水の量から検証するとなると、個人でやる範囲としてはかなり厳しいと言えますので、この「1L」を基準にして、果たして本当に小麦粉でアク抜きができるのかを実験してみることにしました。
( ー̀дー́ )و✧
① 塩の種類で実験
アク抜きに重曹を使うのは、アルカリ性の重曹が繊維を柔らかくしてアクを抜けやすくするからです。
この事からまずは塩の違いに着目しました。ざっくりと分けて精製塩とにがり成分を含んだ塩です。
このにがり成分を含んだいわゆる天然塩はアルカリ性になるので、もしかしたらその濃度に違いがあるかもしれないと考えたからです。
という事で、3種類の塩を使って小麦粉でのわらびのアク抜きを試してみました。
画像:精製塩
塩化ナトリウム99%以上の、いわゆる食卓塩や精製塩と呼ばれる塩。
画像:瀬戸内海の粗塩
にがり成分を含んだ瀬戸内海の粗塩。
画像:五島灘の塩
上の瀬戸内海の粗塩よりも、にがり成分の含有量が高い五島灘の塩。
さあ、このにがり成分の含有量が違う塩3種で、アクの抜け方は違うのでしょうか?。
画像:塩茹で
画像:小麦粉水茹で
塩茹でのものと、現在出回っている小麦粉を溶かした水で茹でる方法も試しました。
画像:二種類の冷水
冷水に晒す方法も、小麦粉を溶かした冷水液と、普通の冷水の二種類で検証しました。
結果、結局どれも苦味が残っていました・・・
Σ( ̄ロ ̄lll)
ガーン
② 板ずりしてからアク抜き
画像:板ずり
画像:板ずり後にアク抜き
塩を使った実験という事で、ついでなので「板ずり」も試してみました。
板ずりとは、塩をまぶしてゴロゴロと転がす事で、繊維が柔らかくなり、アク抜きの効果などもあります。この板ずりをした後に、上のアク抜きの工程を行いました。
しかし、これも特に苦味に変化無し・・・
(ノ´_`)
トホホ
③ 切り口に着目して実験
画像:切り口を増やす
画像:切り口を浸す
次に、アクが主に切り口から抜けていくとした場合、切り口が増えればその分だけアクが抜けやすくなるのではないかと考え、切り口を増やしてアク抜きしてみました。同じように、切り口からアクが抜けやすいようにと、切り口をどっぷりと小麦水に浸けてみました。
しかし、これも結果は何も変わらずでした…
(ー∀ー;)
むむぅ
④ 産地や時期をズラして実験
画像:わらびA
画像:わらびB・C
もしかしたら、産地や時期なんかでアクの強さが違うのか?とも考えまして、わらびも色々なものを購入してアク抜き実験しました。
Aは、いつも使っている近所の八百屋さんで購入したわらび。産地は不明、時期は'16年5月頭。BとCはちょっと遠くの市場と八百屋さんで買ったもの。こちらは'16年の5月末です。
画像:わらびD
画像:わらびE
Dのわらびは'16年の6月半ばに産地から取寄せてみました。山形県大石田町次年子地区の朝採りわらび。やっぱり産直は格別なフレッシュさでしたよ。そしてEは、今シーズンの初ものです。'17年の3月頭に買った茨城県産わらび。
画像のわらび以外にも、かなりたくさんの量のわらびをあちこちのスーパーなどでこまめに買っては試してみました。
それらのわらびも、それぞれ小麦粉を使ったアク抜きをしてみましたが、どれもやはり苦味、えぐ味が残りました…
_| ̄|○
ガク
⑤ 今年の初もので再確認してみる
画像:塩茹で
画像:小麦粉水茹で
ここまでの実験は基本的に昨年のシーズン中に行ったものなので、改めて今年の初もので再確認してみようということで、塩茹での他に、間違いだと思われる小麦粉を溶かした溶液でも茹でてみました。
画像:3種で比較
そして、①冷水に浸す、②小麦粉冷水液に浸す、③小麦粉水で茹でそのまま冷ます、この3種類を試してみました。
結果、①よりは②の方が微妙にアク抜きができているような気がする…という感じで、とは言っても、やはりいずれも苦味やえぐ味は残っていました。
③が一番アクは少なく感じましたが、それは塩も含んだ液に浸していたために塩気が効いてしまっていたので、味が付いたせいだと思われます。
⑥ 一晩浸して重曹と比べる
画像:小麦粉でアク抜き
画像:重曹でアク抜き
最終的に、塩茹でした後に小麦粉を溶かした冷水液に浸しておくアク抜きと、重曹を使ったアク抜きで、どれくらいの差があるかを確認しました。
万が一にも実は自分の勘違いで、重曹も小麦粉水も、似たようなアク抜け加減だったなんて場合を考慮しまして。
という事で、小麦粉を使ったアク抜きも、重曹の場合と同じように一晩浸けておきました。
< 結果 >
重曹の圧勝です!!
重曹の方は、スッキリとアクが抜けていました。対して小麦粉の方は、長時間浸けていたことで、ある程度はアクも抜けているように感じましたが、それでもけっこう苦味、えぐ味が残っている状態でした。
また、上の画像をご覧頂ければ分かるように、重曹には野菜の色を鮮やかにする効果もあるので、色の違いもハッキリと出ています。
私の結論はこうです!
以上、小麦粉をつかったわらびのアク抜き方法を色々と試してみました。これらの結果を踏まえて私個人としては・・・
重曹でのアク抜きをおすすめします。
そして現在、多くのサイトで解説されている小麦粉と塩を溶かした水で茹で、冷水に浸すという方法は、そもそもの情報が間違っているものが広まったものだと考えられます。
更に、実際に放映されたのであろう小麦粉を使った正しいアク抜きの方法に関しても、私としてはどうやってもアクが抜けていないと感じました。とは言いましても、この方法を番組で述べたのは著名な食物学学術博士です。
それに対して私はただの料理好きな食いしん坊です。だからそれを否定などできる筈はありませんし、その方法でのアク抜きが間違いだと言うつもりなど毛頭ありません。
公式サイトでの情報や動画などで、正確な詳細なアク抜き方法の情報を確認できないので、もしかしたら私が何かやり方を間違っている可能性だってあります。
更に言えば、私にはアクの数値を計測する機器などがあるわけでもないので、数値的には小麦粉を使ったアク抜きでアクが抜けている状態であるという可能性もあり得ます。
ですので、小麦粉と塩を使って13分でわらびのアク抜きができるなんて便利!と、その方法でアク抜きするのも有りでしょう。そこはみなさん個人個人の裁量に委ねたいと思います。
私自身もこのアク抜き方法で(しかも間違えている方の)アク抜きし、それを調理して今まで美味しくわらびを食べていたわけで、また「つくれぽ」を下さった方たちも美味しかったとコメントをくれた方が多くいましたから、
調理して味付けすることで、残っていた苦味やえぐ味も気にならなくなると考えられます。
cookpad に掲載していたアク抜き方法をご覧になった方へ
ただひとつ、「cookpad」において私自身も間違えた(と思われる)情報を発信してしまった事は深くお詫び申し上げます。
また、間違ったアク抜きに関しまして、中毒や発がん性物質の心配はないと思いますのでご安心下さい。塩と熱湯を使っているので、それによってある程度のアク抜きもできており、その過程で発がん性物質も消失していると考えられるからです。
(もちろんそれ自体も私個人の見解に過ぎないと言えるわけですが)
あ、それから、最後に朗報です(?)。
今回の実験期間中、たくさんのわらびを購入して様々な方法でアク抜き検証しました。その間、我が家の冷蔵庫の中には、わらびが溢れ返っていました。そんな中で、冷蔵庫の奥に忘れ去られたわらびがありました。
それは、塩と小麦粉を溶かした水で3分茹で、冷水に10分浸した(間違えていると思われる)アク抜き方法で試したわらび。これを水に浸してタッパーで保存していたものを一週間以上忘れ去っていたんですね。
さあ、そしてその忘れ去っていたわらびを試しに食べてみたところ、何とスッキリとアクが抜けていたのです。やはり冷水に長時間晒しておけば、晒しておいただけアクが抜けるのは間違いないようです(間違った方法であろうと)。
ただ、クセのある鯵が好みの方には、長時間水に晒したわらびは風味も抜けていて味気なく感じるかもしれません。
という事で今回の件では、噂話や都市伝説などが世に伝播していく過程も垣間見えたような興味深い検証内容となりました。
そして結局は、あさイチの放映内容を実際に確認できない現時点では、どの情報が正しいのかは分かりません。ただ、今後は私自身はわらびのアク抜きには重曹を使用しようと思っています。
それではこれにて小麦粉を使ったわらびのアク抜きに関する実験コラムを終わりたいと思います。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
引き続き、わらびの美味しさをお楽しみ下さいませ~♪
ヾ(*´∀`*)ノ